この行燈は、3年前に作りはじめ、少しずつ何度か生産をしてきました。
今回は、2023年12月に「コンセントに差し込むタイプ」と「乾電池使用のポータブルタイプ」の2種をご依頼いただきました。
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いつも製作をお願いしている石川県珠洲市の建具職人・赤坂敏昭さんと「年明けから仕事をはじましょう」と話あっていた矢先、
2024年1月1日に能登半島地震が発生しました。
赤坂さんのご自宅も大きな被害を受け、避難所での生活がはじまりました。
そんな状況の中、珠洲へ仕事をお願いして良いものか。依頼主へは納期をどうお伝えしたら良いものか.....。
逡巡していたところ、依頼主より「ご無理のない範囲で、納期も特に急ぎませんので、制作いただけるようでしたら進めていただけますと幸いです。」とご連絡いただきました。この言葉に、大きな励みをいただきました。
2024年2月15日より珠洲郵便局へ荷物の送付ができるようになったので、アクリル板や電源を送り製作を始めていただきました。
行燈は、清涼で深みのある香りが特徴の能登ひばを使っています。
杉板と瓦屋根の民家が連なる珠洲は変わってしまいました。
それでも残っている、これまでと変わらない美しい風景・職人技を大切にしたい。
aemono projectでは2017年より奥能登・珠洲に「継続した仕事をつくりたい」と活動してきました。
これからも、遠く離れている私たちにできる事を見つけて進めていきます。
ちょっこりずつよろしくお願い致します。(赤坂さんのマネ)
アートディレクション:ランドマーク 椎原 裕次郎
クリエイティブディレクション:ランドマーク 小圷 弘之
グラフィックデザイン:ランドマーク 晏 妮
行燈デザイン:SOLO 神 梓
製作:赤坂建具工芸 赤坂敏昭 /石川県珠洲市
ナカ巧芸 /東京
共栄化学工業 /大阪
撮影:Suzutama CF 今井豊/石川県珠洲市
製作進行管理:SOLO 神 梓
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今日は、東京・八王子にある「水無瀬の町家」のために作ったソファクッションについてお話します。
1970年に完成した「水無瀬の町家」設計は坂本一成さんです。
学生の頃、本に穴が開くほど見ていた憧れの建築です。
建築に途方も無い難しさを感じていた学生の頃、私は家具が建築と人を理解する「手がかり」になるのでは?と思っていました。
表現する事へのためらいも大きかったので設計ではなく「家具の製作管理」を仕事とする事にしました。
働き始めた特注家具製作会社 イノウエインダストリィズでの3年目。
ボスから「神さん、水無瀬の町家に食器棚を作るのですが担当をお願います。」と言われた時の嬉しさと言ったら...!
それが今から20年ほど前のこと。写真右奥の壁に取付いている棚がその時のものです。
20年ぶりの「水無瀬の町家」は、やっぱり気持ちのいい場所でした。
天井が高いのですが、背の低い家具を置くことによって、ちょうどよい人の居場所が出来ているのです。
両サイドを少し囲まれた凹みスペースにソファ、その上に吊棚、手前に丸テーブル、壁からの照明。
丸テーブルは家具デザイナーの大橋晃朗さんがデザインしたものです。
何気なく置かれているように感じられますが、設計時、坂本さんと大橋さんはどんなお話をしながら
家具を決めていったのでしょう...。
(坂本さんが教えて下さいました↓)
「水無瀬の町家」の設計は55年程前のことなので、この住宅の家具に関して、大橋晃朗さんとどんな話をしたか記憶にありません。この住宅では、主室のソファ、食卓テーブル、ティーテーブル、作り付け棚、そして寝室のベットの設計をしてもらいましたが、それぞれの家具の必要な場所について以外のことは、直接には話はしていなかったと思います。この設計の少し前、「散田の家」という私の最初の住宅の多くの家具の設計を大橋さんにして頂いていたこともあり、材種や形態等のイメージは共有していて、ほとんど「あ、うん」の呼吸の中で設計して頂いたように思います。
大橋さんとは、私が篠原研究室に所属した1965年以来、知性的で才気ある先輩として交友関係を持っていただき、様々な対話を重ねました。多弁ではない寡黙な会話でしたが、幅広い知的な感性伴う魅惑的な意見がもらえる楽しい会話でした。この水無瀬の設計が始まった頃、大橋さんは篠原研究室から離れ、東京造形大学に赴任され独立されましが、交友関係はそれ以降も変わらず、幅広い領域に関する会話が続いておりました。その後も私の設計した住宅のほとんどの家具設計を担当してもらい、それらの家具は建物と調和して、それぞれの住宅に収まっていたと思いますが、その際にもそれぞれの個別の家具について、多くを語り合ったり、議論をした憶えはありません。
.....長い年月をかけて蓄積された幅広い領域の会話がベースにあったので、個別の家具について
議論しなくても「あ、うん」の呼吸で設計が進み、建築に調和した家具として収まっていったのですね。
今回は、建築の修繕(床の張り替えや内部の塗装など)に伴い、ソファクッションを新しくすることになりました。
製作は、石川県七尾市にあるエフラボさんにお願いしました。七尾市は、むかし建具職人の街として栄えたところ。
その技術を今の需要に活かして繁栄している大規模な工場です。今年のお正月に発生した能登半島地震により大変な時期にお願いしてしまいましたが、今回も誠実な仕事をして下さいました。
エフラボさんが製作プロセスを撮影してくださいましたので共有します。
まずは「ウレタン」の作業場にて。
水無瀬の町家にピッタリあうサイズのクッションにするために、芯となる硬いチップウレタンをサイズにカット。接着剤を吹き付けます。
その表面に希望の座り心地にあった柔らかさのきめ細かなウレタンを貼ります。
その上に接着剤を吹き付けて
化繊綿を貼ります。
次に「型出し」という工程。
いきなり本番を作る訳ではないのです!!
工場にある似たテクスチャーの生地を使って、本番同様の製作をしてみるのです。
生地の張りや弛みなどを調整して...
いざ本番の「裁断・縫製」へ。
最後に「張込」
(柔道をしているみたい!!)
完成したものを七尾から八王子へ混載便にてお届けしました。
お施主様より写真とコメントをいただきましたので共有します。
安心感のある座り心地。丁寧な仕事。生地の色・織も空間にぴったりです。
以前のソファの思い出を引き継ぎつつ 新たなデザインのクッションとともに…
大切に使いたいと思います。ありがとうございました!
aemono projectでは「つくり手から使い手へと受け渡される過程や関係性を知り、価値観やことばを共有しながら作っていけたら。」という思いの元、進行管理をしています。今回も、関わる人が納得できる「なんでもない日常の家具」をお届けできたように思います。これからも、その人にぴったりの上質な普段着を選ぶように、その場にちょうどよい家具を作っていきたいと思います。皆さま、ありがとうございました。
建築・家具デザイン:アトリエ・アンド・アイ坂本一成研究室 坂本一成・久野 靖広
ソファクッション製作:エフラボ 石山厚志
テキスタイル:Ribaco
製作管理進行:SOLO 神 梓
]]>芸術新潮 4月号
2024年3月19日 水無瀬の町家/ソファクッションの製作
新建築住宅特集 4月号
2024年3月15日「森のパレット」
Winart ワイナート The magazine for Wine Lovers
2024年3月8日
朝日新聞 山梨県版「森のパレット」
2024年3月1日
やまなしin depth「森のパレット」
2024年3月1日
antenna 「森のパレット」
https://antenna.jp/articles/22124099
2024年3月1日
Mapion 「森のパレット」
https://www.mapion.co.jp/news/release/000000001.000138391-all/
2024年3月1日
Mart 「森のパレット」
https://mart-magazine.com/prtimes/service/361667/
2024年3月1日
ニッポンふるさとプレス 「森のパレット」
2024年3月1日
B to B プラットフォーム 業界チャネル「森のパレット」
https://b2b-ch.infomart.co.jp/news/detail.page?IMNEWS4=4658860
2024年3月1日
Rakuten infoseek News 「森のパレット」
https://news.infoseek.co.jp/article/prtimes_000000001_000138391/
2024年3月1日
Work master 「森のパレット」
https://www.work-master.net/2024314961
2024年3月1日
@nifty ニュース「森のパレット」
https://news.nifty.com/article/economy/business/12365-2843852/
2024年3月1日
ORICON NEWS 「森のパレット」
https://www.oricon.co.jp/pressrelease/1818629/
2024年3月1日
PR Times(SOLO発信)「森のパレット」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000138391.html
2024年3月1日
さんにちEye 山梨日日新聞電子版「森のパレット」
https://www.sannichi.co.jp/article/2024/03/01/00717830
2024年2月27日
FOODS CAHNNEL「森のパレット」
https://foods-ch.infomart.co.jp/news/69737
2024年2月26日
富士山経済新聞「森のパレット」
https://mtfuji.keizai.biz/release/266854/
2024年2月26日
BIGLOBEニュース「森のパレット」
https://news.biglobe.ne.jp/economy/0226/prt_240226_9321448104.html
2024年2月26日
日本農業新聞「森のパレット」
https://www.agrinews.co.jp/news/prtimes/216600
2024年2月26日
PR Times(山梨県発信) 「森のパレット」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000247.000078927.html
2024年2月26日
林業やまなし 2023 No.234「森のパレット」
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新建築2023年9月号
「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」
設計: 中山英之建築設計事務所
新建築 住宅特集 2023年7月号
ある部屋の改装/塩ビ管でつくる家具「VP150」
設計 中山英之建築設計事務所
Casa BRUTUS 2022年4月号
「A BOX」
設計 Luft 真喜志奈美
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今日は「森のパレット」について、テスト販売・生産状況・ユーザーアンケートのご報告をします。
2023年11月17日
8枚(丸型4枚、角型4枚)テスト販売開始 @山梨県立美術館ミュージアムショップ
2023年11月30日
8枚 完売
2023年12月1日
プロジェクトメンバーが丸型を3枚 購入 (甲府刑務所より直送)
2023年12月1日
甲府刑務所から山梨県立美術館へ15枚(丸型7枚、角型8枚)を納品
2023年12月16日
丸型売り切れ、丸型10枚の予約が入る
角型のみ在庫7枚
2023年12月27日
甲府刑務所から山梨県立美術館へ27枚を発送。1月2日着予定
丸型17枚、角型10枚
よって2024は1月2日から丸型7枚、角型10枚での販売をスタート
丸型売り切れ、角型 ?枚
2024年1月24日
甲府刑務所から山梨県立美術館へ丸型24枚、角型6枚を納品
2024年1月30日
ミュージアムショップ在庫 丸 9枚/ 角13枚
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甲府刑務所さんからは、下記ご連絡をいただきました。
今後、生産性を上げるために
・回転式のサンダー(直径5cm)を導入
・皿作成専任の受刑者を増員予定
・作業台の増設
を実施しますので、今後安定的に毎月:目標30枚を余裕をもって出荷する体制をとります。
ユーザーテスト・アンケート(山梨県林政部林業振興課)まとめ------------
◯丸型使用 男性30代 使い心地はまぁまぁ・ 値段は安い・プレゼントには2枚
・使い勝手では、角型が優れると思う
・デザイン重視の商品と思っているので、使い心地は気にならない
・机に置いて使う機会の方が多いかもしれない
・木の商品は数多くあると思うが、美術館とコラボしたデザインということで山梨ならではの商品となっていると思う
・デザイン性も良いので県内キャンプ場やアウトドア用品店でも売れるのでは?
◯丸型使用 男性30代 使い心地はまぁまぁ・ 値段はちょうど良い・プレゼントには角型2枚
・長く持っていると親指が痛くなる
・凹みはひとつで大きくした方が使いやすい
・日々の食事でプレート使っている家庭には使用しやすい
◯丸型使用 男性50代 使い心地はまぁまぁ・ 値段はちょうど良い・プレゼントには3枚・丸型・角型どちらも
・商品の良い点は、木の感触
◯丸型使用 男性50代 使い心地とても良い・ 値段はちょうど良い・プレゼントには3枚・丸型・角型どちらも
・柔らかいので傷つきやすい、フォークを使うと傷ができる
・軽い・木が感じられて良い
◯丸型角型使用 男性50代 使い心地とても良い・ 値段はちょうど良い・プレゼントには丸型1枚
・くぼみは無くても良い
・木目が美しい
ユーザーテスト・アンケート(山梨県立美術館)まとめ------------
◯丸型使用 女性50代 使い心地は良い・ 値段は高い・プレゼントには丸型2枚
・この商品の良い点:コンセプト・形・デザイン
・凹み部分の面積が意外とせまく、あまり食品を多くのせられない
・ひとつの大きさの凹みにしては?
・使う前にオリーブオイルで拭きあげたところ、油っぽいものも汁気の多いものも沁みることなく、きれいに使えました
◯丸型・角型使用 女性30代 使い心地は良い・ 値段はちょうど良い・プレゼントには丸型2枚
・料理をおける面積が意外と狭かったことに使っていて気づきました
・子供が使うにはちょうど良かったです
・肌触りが良く、見た目がかわいくて魅力的
・オリーブ油しそびれましたが、今のところ問題なし
リーフレット・アンケートまとめ
◯30代男性 リーフレットは読んだ 文字の大きさは許容範囲
・スタイリッシュなリーフなリーフレットであるが、アウトドアなどにも使用できそうであるため
・そういったイメージを入れ込んだら良いのではないか
・商品の製作に携わっている方々への想いなどが伝わり、ストーリー性を感じた
◯50代男性 リーフレットは読んだ 文字の大きさは普通
◯50代男性 リーフレットは裏まで読んだ 文字の大きさは普通
・見開き左の写真のロケーションが今一つ
・企画・製作に関わった人の思いが伝わってくるところが良い
◯20代男性 ブログまで読んだ 文字の大きさは読みにくい
・商品名や価格はもう少し大きく書いても良いのでは...?
・このリーフレットの良い点:表紙のインパクト
◯50代男性 リーフレットは読んだ 文字の大きさは普通
・裏面商品の案内とお手入れに関する箇所の文字が小さい
・このリーフレットの良い点:写真がきれい
◯30代男性 ブログまで読んだ 文字の大きさは普通
・この商品に、県産材使用や受刑者の更生に向けた作業といった、
・商品を見ただけではわからないストーリーが見えてきて素晴らしいと思います
短い期間でしたが、色々な人にお使いいただき、ご意見を伺う事が出来てよかったです。
自分たちだけでは思いつかないことに気づく事ができました。
検討事項としては、下記5つです。
?左きき用タイプも作るか
・日本人の約10%は左利きと言われています
・現状の「森のパレット」は左利きの方には使いにくいようです
?表面に凹みが無いタイプも作るか
・立食パーティやアウトドアで使う場合は、凹みはあった方が良いと思います
・しかし、家庭でテーブルに置いて使う場合を考えると
・まな板のように表面が平らになっていて、そのままテーブルに出せる方が日常での使用頻度が高くなるような気がします
・例えば、パンやチーズを「森のパレット」の上でカットして、そのままテーブルに出すような使い方をしていただけそうです
?表面の凹みが大きく一つのタイプも作るか
・料理をのせられるスペースが狭いとのご意見を複数いただきました
・カレーライスなどを食べる時には、確かにその方が使いやすそうです
?ビッグサイズも作るか
・パーティでお使いの様子を見ていても「小さめか?」と感じるシーンが何度かありました
?リーフレットの文字の大きさを再考
・どうしても文字情報が多くなってしまいますが
・せっかく読んでくださる方に負担が少ないように、文字のサイズを再考した方が良いかもしれません
・場合によっては、現状のA4サイズにこだわらずに
・もう少し大きめサイズの紙でのレイアウトや費用感も検討してみる価値はありそうです
私は、特注家具の製作管理を専門としているので、どうしても、つい「その場所、目的、その人のための特別にピッタリなもの」を
追い求めてしまうところがあります。けれども少量生産の商品である「森のパレット」は、そのやり方では上手くいかないと思っています。もう少し、ふんわり考えていった方が良い気がしています...。
顔の見えない方に販売するものですし、生産量が少ない中で商品のバリエーションを増やすことは、作り手や売り手への負担を強いる事になるからです。パレットのサイズを大きくする事にもトライしたいのですが、天然木のため、木の巾によって原材料価格が大きく変わります。その分、商品の値段が上がってしまうのです...。
うーん、関わる人みんなが無理なく継続した仕事とするには、どうしたら良いか。
とはいえ、ふるさと納税商品への登録の段取りやプレスリリースの準備も進んでいますので、
?については、本格販売スタート時のリーフレットに(出来るだけ)反映してみたいと思います。
????については、
まずは、このまま販売してみて、1年後くらいに、またメンバーでホンネの話し合いをして検討するというのが良い気がしています。
ひとまずのご報告でした!
企画: SOLO 神 梓
山梨県林政部林業振興課 山瀬英治・小池舜
甲府刑務所処遇部企画部門 小池走野・都築朝和
企画・関係者:山梨県立美術館 下東佳那・森川もなみ
素材:山梨県産サワラ
デザイン・進行管理:SOLO 神 梓
製作:甲府刑務所 企画部門(作業)
販売:山梨県立美術館 ミュージアムショップ 小杉佳子
撮影・広報物デザイン:星野善晴
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こんにちは。aemono projectの神 梓です。
先月、2023年12月16日に法政大学市ケ谷キャンパス 外濠校舎6 階 薩埵ホールで行われた第7回「自由を生き抜く実践知大賞」表彰式についてご報告します。
「自由を生き抜く実践知大賞」は、2016年に制定した法政大学憲章を体現する教育・研究等の実践を顕彰し、広く共有・発信することによって、憲章に関する理解を深め、法政大学ブランドを更に強化、周知していくことを目的に設けたものです。
昨年、デザイン工学部建築学科 小堀哲夫研究室の皆さんが主体となって実施した「SIC多摩産材プロジェクト」について、リーダーの関川竜宇司さんがプレゼンテーションを行いました。
プロジェクト概要(法政大学HPより抜粋)-----------------------------------
2022年5月から2023年6月にかけて法政大学デザイン工学部建築学科 小堀哲夫教授及び小堀研究室リーダー関川竜宇司と他ゼミ生8名と補助役としてSOLOの神梓が主体となり、学内では多摩キャ ンパス ソーシャルイノベーションセンター(略:SIC)長 社会学部 糸久正人准教授及び糸久研究室の学生と、職員 小池隆夫、助手 星野善晴とで協働しながら、学外の様々な会社とワークショップを重ね、SICを多摩キャンパスの顔とするべく多摩産材を用いて内装・什器の設計から実施までを行ったプロジェクトです。 私たちは模型や3D技術を駆使したワークショップ、多摩の山間部でのフィールドサーベイを行いつつ、多くの地域課題に触れながらデザインに取り組みました。また、学内で廃棄されるドラム缶を椅子として再利用するサーキュラーデザインにも取り組みました。こうした過程の中で、多摩地域課題の研究、学部を横断した交流、教授・職員・学生が協働する学びの場の創出、実際の社会の作り手との協働を中心に行ってきました。 2023年6月から実際に運用していき、SICの利用者や訪れる多摩地域の方々にとってもSICは多摩 キャンパスの顔となりつつあります。
そしてなんと....!
私たちが目指していたこと、そのものが名称になっている「持続可能なデザイン賞」を受賞しました!
受賞の挨拶をする関川竜宇司さん。
廣瀬克哉総長を囲んでの記念撮影。
総長からの選定理由コメント(法政大学HPより)--------------------------------------
2023年4月に多摩キャンパスに発足したソーシャル・イノベーションセンター(SIC)の内装・什器の設計から実施までを、多摩キャンパスの学生教職員と、小堀研究室の学生のコラボレーションで行った取り組み。地域の課題の解決に、現場で活動しながら取り組んで行くSICにふさわしく、地元多摩産の木材を活用したり、学内で廃棄されるドラム缶を再利用したりしながら、SIC利用者のニーズに合った、デザイン的にも実用的かつ魅力的な空間と什器が実現された。研究室の専門性を生かし、現場ユーザーとの協働によって、多摩キャンパスの顔に相応しい空間を、学生が主体的に構築した成果が高く評価された。
環境改善活動推進キャラクター「えこぴょん」のぬいぐるみと表彰状。
デザイン工学部建築学科 小堀哲夫研究室の感想(法政大学HPより抜粋)--------------------------
実施までを行うこのプロジェクトを通して、大学内で学部を超え、地域社会を見据えながら常に利用者 と共に作ることの大切さや多くの学びを得ることができました。教授・職員・学生とのワークショップを通して、多くの方々の協力の中で、各立場での主張がぶつか り合うこともあり、これが実践的なデザインの難しさか...と思わされました。しかし、最終的に完成品を見たときは何とも言えない感動と利用者の楽しそうな顔が鮮明に思い出されます。実践的に作り手、 利用者との協議を重ねていくことで、実際に形にする上での喜びと苦悩を味わうことができました。その中で、多くの方々と関わり合いながら大成功に終われたことは自身のデザイナーとしての第一歩だと感じています。私の中での一番大きな実践知は、実際に自分たちがデザインしたものを作り、利用者の声を聞くことでデザインの可能性に気づかされたこと、そしてそれらが林業や地域の方々と密接に関わりあいな がら巡り巡っていることに気がつけたことです。 これらの貴重な経験を胸に建築デザインだけでなく、社会全体に影響するイノベーションが生まれるデザインを目指して全力を注ぎたいと思います。
わたしの感想---------------------------------
数年後には大学を卒業し、社会で実践を重ねていく学生の皆さんと共に行うプロジェクトは、私にとっても意義深いものでした。
家具について、アイデアを思いつくのは簡単です。スタート時は「なんか出来そう...!」と思うものです。けれども完成させるプロセスでは、プロでも産みの苦しみを味わいます。今回も安全面、使い勝手、意匠性、サイズ感、ディテール、ユーザーのご意見、コストと、検討事項は山積み。こちらを立てれば、あちらが立たず。それでも、学生のみなさんは諸条件・課題を即座にメンバーで共有し、「より良い方法」を探っていました。すごかったなぁ...!
とかく壮大な理想を掲げ、どこかで聞いたことがある美辞麗句を並べがちになるプロジェクトを地に足がついたものに出来たのは、
地域に根ざした仕事をしていらしゃる林業家・木工職人・金属加工職人・塗装職人・畳職人のお話を伺いながら進められた事が大きいように思います。彼らの真摯なモノづくりの姿勢と学生の皆さんの理想を「家具」という実物を通して可視化する事ができ、うれしく思います。
それにしても...学生主体のプロジェクトを見守る先生方や職員の方々のおおらかだった事...!
それが「法政大学らしさ」なのでしょう。以上、ご報告と感想でした。
デザイン : 法政大学デザイン工学部小堀哲夫研究室
関川竜宇司・武井友也・筒井彩加・小瀬木駿・清水知徳・立川凪穂・福田美里・石井陸生・遠山開
コラボレーター:法政大学多摩キャンパス ソーシャルイノベーションセンター(略:SIC)長 糸久正人
社会学部 糸久正人研究室
法政大学職員 小池隆夫・助手 星野善晴
素材:東京都檜原村産杉・檜/鉄/畳
木工:東京チェンソーズ/東京都檜原村
金物:小原工業/東京都板橋区
ドラム缶塗装:アイ・エス塗装/東京都板橋区
畳:畳屋よこうち/東京都八王子市
製作進行管理:SOLO 神 梓
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メインサイン。Bunkamuraの文字のカタチをできるだけオリジナルに近づけるために、照明メーカーと設計事務所は何度も検証を繰り返した。
ポスタースタンドB1/B2。転倒防止のためのスチールの重しは、杉の角材サイズに合わせて特注にした。開き止めのコードは照明用の電気配線。
土田 DIY的にデザインされた家具や什器を、工場でプロの職人さんがつくることに問題はないんですか?
神 ものすごくありますよ(笑)。デザインとしては簡単そうに見えるけれど、私を含めて工場の人にとっては、つくり慣れていないものほど難しい。DIYの家具なんて誰もつくったことがないんです。私としても、やったことがないからできるとは言えないし、できないとも言えない。途中まではビクビクしていました。
物販カウンター。杉の角材と構造用合板で組んだフレームに500角カーペットを太鼓ばりした。
物販カウンターに出入りするための扉。カーペットの裏面をそのまま見せている。
中山 表現が表現のためになってしまう問題は、いつも少なからず課題としてありますよね。ただ今回のように、考えることと現場が追いかけっこのようになってしまうようなスケジュールでは、やってみてわかってくる要望や発見を即興的に汲み取っていくことが、結果として求められた仮設性にも繋がっていて、その意味でもDIY的なディテールの積み重ねというのは、働きをもっていたと思っています。それから、既存の解体をしないとは言ったものの、この什器もまた期間後には解体されてしまいます。材料の使用を最低限に抑えるという意味で、たとえば(チケットやパンフレットを販売する)カウンターではカーペットを障子みたいにフレームに太鼓ばりにしています。大きなカウンターですが、面材は天板にしか使わず、他は線材とカーペットだけにできました。
神 ショーケースのガラスは、普通は周囲にシールをつけて納めたりします。しかし中山さんはカーペットにガラスが「ペトッ」ってついてるだけにしたいと。それは怖いと言ったら、どうしてできないんですかと自信満々に言われた。職人さんも怖がっていたんですが、カーペットの割り付けを工夫すると強度が出せました。
中山 カーペットというのはおもしろくて、触ると柔らかいけれど、同時にいつも踏まれているハードな存在でもあるので、もしかしてこれはそのままガラスの押し縁になるな、と。そういう、普通は複数の素材で納めるところをひとつに統合できるようなディテールを、使う場所が決まっていなくてもあれこれ考えておいて、そこから逆算してデザインを考えるような、ちょっと不純なことはいっぱいやります(笑)。ロビーに置いたゴミ箱もそうですね。
ゴミ箱のサインは現場にてカッティングシート貼り。
神 このゴミ箱にもエピソードがあって、一連の造作の見積もりを出した時に、全体としてはOKだけどゴミ箱の値段が高いと中山さんのチェックが入った。確かに高かったんです。DIYで誰でもつくれるつくりかたでいいんですよと言われて、でも工場ではそれが、つくっても強度的に大丈夫なものなのか判断できないんです、経験がないから。そういった不安要素が金額にのってくることはよくあるんです。
中山 「表現としてのDIY」問題ですよね。つくろうと思ったら事務所でもつくれるけれど、本当は仕事となると厳しい責任が生じるし、誰が手を動かしても同じように時間はかかる。それはもちろんわかっているつもりです。そのために大量生産品が売られているんですよね。ただ、いくらシンプルなゴミ箱を安く見つけてきても、そうしたものの蓄積では実現できない空間というのはきっとある。お客さんがよくする質問や、スタッフたちのルーティン作業をよく聞いて、たとえばフレームにサイン表示を統合するとか、袋の規格サイズを選んだり、それが掛けやすいディテールを工夫したり、そういう固有の条件を少しずつ積み重ねていくことで、ひとつのかたちに統合していく。だから僕たちはたぶん、ブランドイメージのための飾りつけみたいな要望に応えるのは、少し苦手なのかもしれません。
土田 神さんの立場としては、中山さんの細やかな部分を受け入れながらものをつくっていくんですよね。
神 細かいということに関しては、家具づくりってそういうものだと思うから大丈夫なんですけど、今回思ったのは電気の配線。部分的に既製品を使うので、どこからどれくらい線を出すかを磯さんたちに聞きながらもなかなか決められなくて、そんな時に中山さんから「線は背中真っ直ぐでしょ」と言われて、はい、そうしますと。
中山さん愛用のラクソ。
中山 たとえばラクソ(Luxo)のアームライトのようなタイムレスなデザインが、たぶん頭に沁みついているんですよね。あのタイプのライトはアームが大きく動くので、関節部分に露出したコードに遊びがある。この遊びは長すぎるとたわんだ時に屈曲してしまうし、短すぎると伸びた時に突っ張ってしまう。ランプシェードの首元に丁度よい余長でカーブを描いているコードを含めて、完成されたデザインなわけで。
磯 涼平 それが電線のたるみの山の高さを決めるお手本になっています。
土田 そこまでがある種、建築の言語の中に入っているという姿勢が新鮮です。サイズの細かさとは違う、ある種の繊細さがあるんですね。
杉角材に打ち込んだビスにひっかけられたカーテン。カーテンには穴あけ+ハトメ。
神 最初はポスターを剥き出しで掲示するのも意外でした。アクリルやガラスで美術品のように見せることが多いので。
中山 それもヒアリングの結果なんです。貼り替え作業って、本当に大変なんです。ポスター前で記念撮影するお客さんも多くて、映り込みが抑えられるのも理由のひとつでした。
土田 するとチラシが回転するのは、どんなところからでしょうか。カウンターの横にある柱の周囲で、チラシのラックが回っていますよね。
ブチルテープで本体に接着された透明下敷がチラシの背もたれの役目を果たしている。チラシの押さえは、スレンレス製のバネ。そのままではバネのコシが弱かった。中に
木の丸棒を仕込むという設計事務所スタッフの素朴なアイデアが不具合を解消した。
中山 映画ファンにとって、チラシを持ち帰ることって、映画館に行く楽しみのひとつなんですよね。柱の位置が動線上、行き帰りにチラシを眺めに寄るのにちょうどよかった。それから、ロビーは暗めにしておく必要があるので、基本的に窓は遮光しなければならなくて、そうすると時間の経過がぜんぜん感じられない場所になってしまうんです。それで、動きをつくりたくてチラシラックをゆっくり回してみたら?と。
磯 ただ、動かす機構を製作するのが実はなかなか大変でした。 ラブホテルの回転ベッドの製作所を突き止めたり(笑)。ただ、あれは中心軸があるんですね。中心が柱なのでうちではできません、と。最終的には、食品加工工場で流れ作業の機構をつくっている製作所が引き受けてくれました。
神 最後に全体の施工をまとめてくださったのは丸八テントさんというテント屋さんだったんですが、磯さんからこのチェーンならできると提案してもらったので実現していきました。今回の仕事は更新が多かったけれど、ここまで更新が腑に落ちる案件はあまりないんです。
中山 これは本当に感謝しているのですが、今回神さんには試行錯誤のあいだずっと話し相手になっていただいて。雑談といっても、相手が神さんのような膨大な経験をされている方だと、こちらが思ってもみなかった角度からの意見が、不意にひらめきを呼び込むことがあるんですよね。実際の製作というのはこういう手順や分業で動くので、この工程でここまでやっておけば大幅に工程が省略できる、とか。その場では結論が出なくても、新しい試案を立ててみるきかっけをもらえたり、自分たちの思考パターンが再構築されていくようなことが、必ず起こるんです。
パーティクルボードに溝をいれ、カウンターの側面Rに沿わせた。
神 うまく言えないんですけど、私がつくっていておもしろいと感じる家具は、このディテールだから成り立つという形でできているんです。工場では合理性を追求しちゃったり、わざわざ大変なことをしようというのは、自分の中からは出てこない。今回、中山さんがデザインしたものをつくっていて、そうそう、こういうこと、というのを改めて思いました。奇を衒ってはいないけれど、今までにないやり方をしていて、でき上がったものは決して奇抜でない。いや奇抜か……。でも、そのディテールに合理性があってすごく納得できるんです。いい家具だなって。
「分厚い扉」の戸先のRは、開け閉めの軌道から自然に決まった。
中山 これは建築設計を生業にしている事務所の性かもしれませんが、どんな小さなものでも、解剖学的に納得できる絵しか描きたくないっていう気持ちが、強くあるのだと思います。ただ、僕らのように商業施設の内装設計の経験が乏しいと、それが現場での分業や生産のフローとはズレていることも、あるんですよね。それに気づくことは時に、さっき言ったように発想の転換に繋がることもあるし、時にひっくり返さないと納得できないことも、やっぱりある。ただ、ひっくり返したいと思うのも、決して単純なパッションじゃないんです。それがどんな細部であっても、いつも全体性の中での帰結としてありたいっていう思考が、現場とぶつかることもある。
土田 解剖学的に正しいんだけど、今まで見たことがないものをつくりたいという意志が、中山さんにはありますよね。その両方を目指すのが中山さんらしさかもしれない。
アートショップNADiffによる特別なキュレーションがなされたブックストア。販売される書籍のラインナップは定期的に入れ替わる。
中山 とっさに解剖学と言いましたが、言い換えると、たとえば通常の環境では同時に思考する対象になっていないものに共通項を見出して、DNAを共有した生態系を広げていくような感じかな、と思います。今回は、カウンターやベンチ、掲示板や棚のような家具から、時計やゴミ箱といった備品まで、基本的には同じDNAでできている。もちろん、万能なDNAがあらかじめ手元にあるわけではないです。そこにある生態系を構成する要素を全部書き出して、それらをすべて記述することができる単純な塩基とその配列を帰納的に探り当てていくような作業を繰り返すことが、僕たちにとっての設計なのだと思います。だから、単体を取り出した時には意味が完結しないディテールがあっても、それが生態系全体としての意味を担っているような展開を、時にはつくり手を説得しながらひとつひとつつくっていく時間を、辛抱強く並走してくれる神さんのような存在が、どうしても欠かせないんです。今回のプロジェクトは、そうやってできた環境がこのような記事に興味を持ってくださるような方だけでなく、働くスタッフのみなさんや、映画や映画文化を愛するたくさんのお客さんにとっても、ごく自然に受け入れてもらえるような場になったのではないかなと思っています。
もぎりカウンターと一体化された劇場サイン。
映画制作時のカチンコを着想源にしたメニューボード。パーティクルボードにウレタン塗装。
脱着しやすく、かつ、人がぶつかっても落下しないよう製作工場にてディテールの検証実験をした。
お喋りの本編には盛り込めないほどに、「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」が完成するまでにはもっとたくさんの試行錯誤があり、細かいディテールの検証と、そこから得られた機能や表現のバリエーションがありました。建築家が自由に豊かに広げたイマジネーションを、時間や予算の制約もふまえ、自分の哲学も実現にかかわる人の思いも込めて、ひとつの空間へと収めていく。それが解剖学的に正しいものでありたいというのが、本当におもしろい。いずれ今回のお喋りの完全版をテキスト化したいと思いました。(土田)
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撮影/太田拓実
内装・家具・サインデザイン:中山英之建築設計事務所・中山英之・三島香子・磯 涼平・鳥海沙織*・野村健太郎*(*元所員)
照明:岡安泉照明設計事務所・岡安泉
素材:500角タイルカーペット/SANGETSU
国産杉角材・産廃パーティクルボード他
内装施工:東映建工 堤篤司・治幸一
金沢工務店 小林繁浩・綾部浩二
サイン施工:フロムトゥ 山崎陽一
家具製作: センティード 笠原和樹・岸田力也・吉田剛丈・小野泰幸・埋田邦彦
家具製作:イノウエインダストリィズ 後藤洋佑・安井勇吾
塗装:ハルナ工芸 植杉 隆士 ・アイエス塗装 篠原 育也
回転チラシラックモーター製作:丸八テント梅本秀隆
サイン照明:タカショーデジテック 萩原太聖
照明:FKK 川口利治
照明:ミンテイジ(株)英 要・英 皓
カーテン製作:堤有希
英訳:スチュワート建
製作管理進行:SOLO 神 梓
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神 梓 私が建築家やデザイナーのみなさんとご一緒する仕事は、当初の案がどんどん更新されていくことは珍しくないのですが、「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」はその変化が激しかったんです。無事に納まって本当によかったです。
中山英之 本当にありがとうございました。でも、僕の中ではそこまで変わったっていう意識はないかもしれない(笑)。
神 そうなんですね……。証拠じゃないですが、これをもってきました。去年(2022年)の秋に声をかけていただいた時、このロビーのスケッチを渡されて、「まあ、楽しそうな絵」って思いました。クライアントさんにもお見せしたものですよね。
中山 すでにちょっと懐かしいですね。これは、今回は床に置くものだけでロビーの内装を完結させましょう、という提案を伝えるためのスケッチでした。というのも、このプロジェクトで最初にクライアントに伝えたのが、既存の解体をやめませんか、ということだったんです。当初クライアントのチームから示されたレファレンスの多くが、スケルトン化された剝き出しの空間や、仮設的な内装のイメージでした。90年代的な装飾がなされた既存の状態(別の映画館として2022年12月まで営業)を、これまで育ててきた自分たちのキャラクターや、これから始まる新しい展開のために、リセットしたかったのですね。けれども、たとえば一度天井をはがしてしまうと、防災設備から換気量計算まで、すべてやり直しになる。期間限定であることを考えると、それは現実的ではなかった。実際、劇場内部は映写や音響機材の更新を除いて全く手を加えていません。そこから、既存には一切触れずに、ロビーの床に置いたものだけで映画館の印象を生まれ変わらせる、という提案が生まれました。
映画館は、渋谷・宮益坂下交差点に建つビルの7F・9Fにて営業中。
中山 この映画館はロビーから劇場へのドアが一重なので、ロビーは常に薄暗い必要があった。暗い環境では、人の視線は光に集まります。たとえば広場にキッチンカーが来ると、キッチンカーごとの世界観に意識が向けられるように、ロビーが広場だとすると、明かりを取り付けた什器や照らされた対象で大半の印象が決まるんです。だからハロゲンや蛍光灯が残っていた既存照明を全消灯して、明かりは什器に取り付けたLEDのみ、という考え方もこの時決めたことでした。そんなふうに最初のスケッチは、映画館のロビーに求められる機能を組み合わせた什器の形を考えて、それらがパレードのようにここにやって来ると期間限定の映画館が始まって、期間が終わると去っていく、というようなストーリーを伝えるためのものだったんですよね。だから「そのままの形を作ります」という絵ではなくて、これからロビーの使い勝手についてたくさんヒアリングをしますよ、と話しました。
Bunkamuraの休館(オーチャードホールを除く)に伴い一旦営業を終了したカフェ「ドゥ マゴ パリ」が、小さなスタンドカフェとして営業中。「LES DEUX MAGOTS」の文字は、パーチクルボードの9ミリ。データ入力により自動でカットされるマシーンを使うと文字のエッジが甘くなってしまう。そのため、サイン職人は昔ながらの糸ノコを使い、1枚ずつ手加工で切り出した。
神 その考え方には共感できますよね。でも話には続きがあって、そこに描かれた家具の見積もりを1ヶ月後に欲しいと言われ……。まだ予算がはっきり決まっていなくてもその目安を知りたいというのは重々承知で、でもこのスケッチの状態ではどんなに優秀な家具屋さんでも見積もりはできないから、私が妄想も働かせて図面化し、見積もりを出してもらいました。中山さんのスケッチからしたらダサいなとか、やりすぎだろうとか思いながら(笑)。そしたら次は素材の話になって、クロームメッキを使いたいという話が出ましたよね。
中山 什器は基本的に床に置くだけ、っていうところから、転倒しないためにはベンチのような土台が必要になるのではと考えて、反射でそれらを消去できないか、というところから、大きなクロームメッキの箱からいろいろなものが生えているような案が出てきた。
神 それは金額的に不可能だったんですが、2022年の12月に入ると別の話が出てきたんです。菱形のプレートにポスターをつける案が生まれて、それも金額まで出したりして。
中山 右往左往させてしまってすいませんでした。設計期間が本当に短かったんです(笑)。映画館のスタッフの方から話を聞くと、配給会社から預かるポスターやチラシを、こちらが思う以上にそれはそれは大切にしているんです。上映中や近日公開のものだけでも相当な数ですし、映画文化全体を盛り上げるために、近隣のミニシアターのポスターやチラシも展示する。過去のアーカイブや大型のバナーが登場することもあって、サイズもさまざま。だから想像よりも壁面がとても多く必要なことがわかってきた。それらの入れ替えも頻繁にあります。移転前の現場では、ポスターの裏に両面テープで磁石を貼る習慣があったと聞いて、それでピース状の鉄板を既存壁にちりばめる案や、空中や壁面にノートの罫線のようなものを設置する案など、いろいろ考えましたね。神さんにはその都度概算をお願いしてしまった。ともかく、与件を集めるためのヒアリングと、アイデアを出すことと、概算を可視化することを同時にやっているうちに、これくらいの機能が空間のこのあたりに必要で、それをどのくらいのコストで実現させる必要があるのかが、浮かび上がるように見えてきた。保留、保留と言いながら……。
神 そうそう。
設計期間中は「女優ライト」の愛称で親しまれていたトイレ内照明。鏡に映り込む配線の姿の検証は製作工場が行った。
中山 そんな過程を経て、これはもっと徹底的にコストダウンしないとダメだ、というのがある段階でわかってきて(笑)。意識改革をしようというのが見えたのが2022年の年末頃でした。そこまでいろんな案を試しましたが、試案には問題点を浮き彫りにする働きがあるんです。こっちで行き詰まり、あっちで行き詰まり。そういう逡巡の全体が頭の中にふわふわ漂っているような状態になったとき、突然全部の問題が解けるまったく別の道筋が見える。見えないまま締め切りに追い抜かれてしまうこともあるんですけど。
土田貴宏 あるんですね(笑)。
中山 そう、ずっとその苦しみの連続です。でも今回はそれがある段階でちゃんと見えた。
神 その瞬間は私にもわかりました。すごく納得した顔をしていらっしゃるなと。時間的なリミットでもありましたが(笑)。
中山 そういう時には、ふわふわとした雲が流れてしまわないうちに、急いでスケッチします。2日間くらいで全部描いたんじゃないかな。それがほぼそのまま最終案になっています。ひとつは、ノコギリとインパクトドライバーくらいの工具があれば、基本的にはDIYで誰でもつくれるようなものであること。想像したのは、映画の撮影現場にあるセットの書割りですね。当初クライアントにあった、実験的で仮設的なイメージに応える意味もありました。使う材料を徹底的に減らす代わりに、現場での思いつきが即興的に反映されていく感じを大事にしたくて、なるべく統一感が出過ぎないように色んな形を考えました。もうひとつは、カーペットを使うこと。既存の解体はしないと決めましたが、くたびれてしまったカーペットだけは貼り替えが必須でした。剥がしっぱなしという選択肢もありますが、映画館のロビーは吸音が命なんです。それで、安価なタイルカーペットを什器の材料としても使ってみることを思いついた。円柱とか円錐とか、素材としてのカーペットがとりうる自然な形をサンプルに触れながら考えていきました。そんなふうに決まっていった基本的なデザイン言語だから、それまでのコミュニケーションから見えてきた機能を形に置き換えていく作業は、とても早かったですね。あとはDIYって、そこまで洗練されていないものがつくれてしまうのもいいところだから、立入禁止の看板をディレクターズチェアの格好にするとか、照明を監督のメガホン型にするとか、トイレの鏡を楽屋に見立てるとか、ボツになったものも含めて、映画を想起させるような遊びもたくさん考えました。
現場にて500角カーペットに型板をあて、カッターで切り出したシェード。無限に考えうる形のバリエーションの中から設計事務所は3種の形を決めた。ロビーのいろいろな場所に丁度いい角度に設置されている。
中山英之建築設計事務所がデザインしたサイン。現場にて版画のように刷るシルクスクリーン印刷。
「LIBRAIRIE」コーナーには、アートショップNADiffによる特別なキュレーションがなされたブックストアが併設。販売される書籍のラインナップは定期的に入れ替わる。
予告編上映とベンチ。
既製品をリメイクした時計。時刻を示すポッチは、カーペットに釘を打ち、白色焼付塗装を施した0.3mm厚の鉄板を貼付した。
ミニカウンター。最も幅が狭いタイプの照明シェードが使われている。
ディレクターズチェアの格好をした立入禁止の看板。材料カットのみを工場で行い、組み立ては設計事務所が行った。
サインスタンドと他階案内。円錐形のベースの中には転倒防止のためにスチールの重しを仕込んだ。
土田 グレーのカーペットは、「Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下」のロビーのデザインのいちばん重要なキーワードだと思っていました。しかし先にあったのはDIYというデザイン言語だったんですね。
中山 なんでもない歩道を特別な舞台に変換してしまう映画祭のレッドカーペットをお手本に、それを「影のカーペット」として読み替えるというストーリーはすでにいろんなところで話していますが、これは言うなればレトリックですよね。レトリックはさまざまな媒体に向けて、短いことばで本質を伝える時に必要な物語です。そうした、ものそのものが固有にもっている社会的な意味性や物語性などの文脈を、性能や機能といった物理的な側面と等価に、そして同時に思考していくのは、もしかしたら僕たちの特徴と言えるかもしれません。
メインサイン。その左右には、マジックテープで脱着するポスター掲示システムがある。
中山 物理的特性という意味では、たとえばカーペットは曲がる以外にもいろんな特徴があって、表面の毛にはマジックテープがつくから、磁石の代わりにポスターを貼る方法に使えるとか、木枠にビス止めしてもビス頭が毛に埋もれて隠せるだとか、材自体に張りがあるので、下地の面材を省略できるとか。そういう、素材に内在する行為のきっかけや施工勝手などを、思いつく限り引き出していく。ちなみにこのグレーのカーペットは、内装業者が安価に仕入れられるカタログで選んだもので、それがたまたま500ミリ角だったので、それが設計モジュールの一単位になってもいます。大きな黒い面が目地なしで作れるので、最初のスケッチでは独立した什器が散在していましたが、影が伸びるように什器同士が連続することになりました。そんなふうに、限られた素材がもちうるあらゆる可能性をとことん洗い出して、それらを使い切りながら問題に応えていきました。
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撮影/太田拓実
内装・家具・サインデザイン:中山英之建築設計事務所・中山英之・三島香子・磯 涼平・鳥海沙織*・野村健太郎*(*元所員)
照明:岡安泉照明設計事務所・岡安泉
素材:500角タイルカーペット/SANGETSU
国産杉角材・産廃パーティクルボード他
内装施工:東映建工 堤篤司・治幸一
金沢工務店 小林繁浩・綾部浩二
サイン施工:フロムトゥ 山崎陽一
家具製作: センティード 笠原和樹・岸田力也・吉田剛丈・小野泰幸・埋田邦彦
家具製作:イノウエインダストリィズ 後藤洋佑・安井勇吾
塗装:ハルナ工芸 植杉 隆士 ・アイエス塗装 篠原 育也
回転チラシラックモーター製作:丸八テント梅本秀隆
サイン照明:タカショーデジテック 萩原太聖
照明:FKK 川口利治
照明:ミンテイジ(株)英 要・英 皓
カーテン製作:堤有希
英訳:スチュワート建
製作管理進行:SOLO 神 梓
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今日は「森のパレット」のテストマーケティングについてお話します。
丸型と角型、計46枚を甲府刑務所さんへ発注していました。
しかし諸事情があり、製作が間に合ったのは半数の23枚。
(急いで数を間に合わせるよりも、まずは製品のクオリティーを上げて欲しい旨を私からお願いしたことも影響しています。)
いざ、大切な23枚を使って実証実験です!
2023年11月17日。山梨県立美術館にて「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」展のレセプションパーティが行われました。
その会場で15枚の「森のパレット」を実際に使っていただきました。
初めて「森のパレット」を目にした方は、どうやって使ったら良いか分からないようで、くるくる回す方もいらっしゃいました。
このお皿が、「油絵を描く時のパレット」の形という事に気づく人は少ないかもしれません...。
持ち心地も滑らかで軽く、使い心地は良い。ご好評の声が多かったです。
ただ、左利きの人が、独自の持ち方をしている事に驚きました。
自分が右利きなので、左利きの人の使い方を全く想定していませんでした。
ハサミにも左利き用があるので、「森のパレット」にも左利きタイプを作るか? と一瞬思いましたが、
全体の生産量が少ない中で商品バリエーションを増やすことをどう考えたら良いか...。これから開発メンバーと要相談です。
ミュージアムショップでのテスト販売も開始しました。
丸型・角型ともに1枚 2,750円(税込)
売り出した翌日の土曜日、ご家族で使うためにと4枚ご購入下さった方がいらしたそうです。
ショップへお渡ししたのは計8枚。発売から1週間で残りは1枚...(はやくも汗)
刑務所の受刑作業として作っていただいているので、職人の手を増やして増産対応などは出来ないのです...。
レセプションパーティで使ったお皿は、開発メンバーの友人や家族、同僚に1ヶ月ほど使っていただき、ご意見を集めることにしました。
パレットには、山梨県立美術館のシンボル「種をまく人」を焼印しました。
帽子を目深に被った農夫が懸命に種をまくように、私たちも山梨の豊かな大地に種をまきたい。
このプロジェクトを通して、これからどんな花が芽吹くのか。5年後にどんな景色をみることが出来るのか。
「森のパレット」が少しずつでも成長して、継続した地域の仕事となりますように。やるべきことを淡々と進めていこうと思います。
テストマーケティングの結果は1ヶ月後にお話する予定です。
企画: SOLO 神 梓
山梨県林政部林業振興課 山瀬英治・小池舜
甲府刑務所処遇部企画部門 小池走野・都築朝和
企画・関係者:山梨県立美術館 下東佳那・森川もなみ
素材:山梨県産サワラ
デザイン・進行管理:SOLO 神 梓
製作:甲府刑務所 企画部門(作業)
販売:山梨県立美術館 ミュージアムショップ 小杉佳子
撮影・広報物デザイン:星野善晴
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今日は、山梨で開発している「森のパレット」の素材と産地についてお話します。
「ヒノキと間違えて植えられたものじゃないですかね....。」
「森のパレット」の素材であるサワラのルーツを山梨県林政部林業振興課 山瀬英治さんにお聞きしたところ、意外な答えが返ってきました。柔らかくて建築用材に向かないサワラは、山梨県内では、ほとんど植林されていないそうです。
「ヒノキとサワラはよく似ているので、ヒノキの植林時に間違ってサワラの苗が混入していたのでは...? 」と。
むむむ....おもしろい!!
数十年前に間違って植えられたかもしれない木を使って商品を作るなんて。
山梨県の人工林は、15万3千ヘクタールほど。内訳は下記。(R4 山梨県林業統計書より)
ヒノキ:4万5千ヘクタール
カラマツ:4万4千ヘクタール
アカマツ: 2万7千ヘクタール
スギ:2万6千ヘクタール
その他針葉樹:6千ヘクタール
広葉樹:5千ヘクタール
サワラはその他針葉樹に含まれます。20ヘクタールくらいでしょう、と。
「森のパレット」のサワラがどこで伐採されたかは分かりませんが「まずはサワラを観に行きましょう。」
と、2023年10月30日に山梨市牧丘町へ。
まずは、天然林。
天然林が生えている地面は、でこぼこ歩きにくい。でもフカフカ。
いろんな障害物がある中で生き延びてきたサワラは、反ったり、よじれたり、割れたり。ぐにゃりと曲がったり。
地面が岩などでゴツゴツとしていて、人が手を入れにくい場所だったから、天然のサワラ林が残ったのでしょう。
ご案内いただいいる最中、山瀬さんはしきりに葉っぱを裏がえして眺めていました。
ヒノキとサワラを識別するためだそうです。
立木の状態でヒノキとサワラをパッと判別するのは、難しいそうです。
天然木のサワラの幹は、フカフカでした。押すと指が沈むくらいに。
次に、人工林を観に行きました。
山梨県は、県土の78%が森林。そのうちの約半分は県有林です。
この県有林は、明治末期に山梨県で相次いで発生した大水害の復興に役立てるよう1911年に御料地(皇室の所有地)を明治天皇から御下賜されたものだそうです。
県有林は2003年に国際的な森林認証制度であるFSC森林管理認証を取得し、国際的な基準に則った持続可能な森林経営を行っています。その認証面積は日本1位の広さです。
芯が赤いのが杉。
芯が白いのがヒノキ。
ヒノキ林はとても暗かったのです。
なぜか...?
・伐採した跡地に苗木を一斉に植える↓
・最初の5−8年間ほどは雑草との競争となる↓
・雑草に負けないように草刈りをする(下刈りと言う)↓
・その後 除伐・間伐と手入れをしていく↓
・そのため人工林は 同じ大きさの木が均等に生える↓
・ヒノキの葉は平たい面となっているから日の光をよく受ける↓
・林床へ光りが射しにくくなる↓
・ヒノキ林が暗くなる
....なるほど!
(針葉樹のうちアカマツやカラマツは葉が細い針のような形なので、光が比較的地面へ通るそうです)
林内が暗くなると、林床では植物が育ちません。
また、ヒノキの葉は枯れると小さい粒となってしまいます。
広葉樹林やスギ林では落ちた葉がたまりますが、ヒノキの林では枯れ葉がたまらないため土がむきだしとなってしまうのです。
手入れの悪いヒノキ林では雨がふると土がむき出しのため、土壌流出が発生してしまうそうです。
鹿に食べられてしまう事を防ぐため、ネットをかけられたヒノキの苗木。
人工林は、絶えずお手入れが大切ということか...。
山瀬さんはよく「業としてなりたたせるのが難しいですよね、林業は。」とおっしゃいます。
森林を伐採して、売ることで得られるお金だけでは、次の世代の森林を育てる事が出来ない、ということ。
その課題は大きくて、難しすぎて、私の手には負えないことです。
それでも、地域の木を身近に感じて、使う機会を増やすことで、少しでも林業や日本の環境を整えるお役に立てたら。と思っています。
企画: SOLO 神 梓
山梨県林政部林業振興課 山瀬英治・小池舜
甲府刑務所処遇部企画部門 小池走野・都築朝和
企画・関係者:山梨県立美術館 下東佳那・森川もなみ
素材:山梨県産サワラ
デザイン・進行管理:SOLO 神 梓
製作:甲府刑務所 企画部門(作業)
販売:山梨県立美術館 ミュージアムショップ 小杉佳子
撮影・広報物デザイン:星野善晴
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今日は山梨で開発している「森のパレット」のつくり手についてお話しします。
2023年10月30日。
テストマーケティング用に発注した46枚について、製作工程の確認と検品のために甲府刑務所へお伺いしました。
パレットの素材は、山梨県森林組合から仕入れている県産のサワラです。
いま一般的な工場では、このような形状の場合、NCルーターという機械を使うことが普通です。
図面データを入力すると自動でカットされるので、たくさんの枚数を一度につくる事ができます。
しかし甲府刑務所では、ひとつひとつ手作業でカットしています。
輪郭は帯鋸盤。穴はボール盤。木口のテーパーと凹みはルーターを使って。
凹み部分の位置決めも私の手書きの図面を鉛筆で写すという原始的な手法です。
そのため、出来上がるパレットはひとつひとつ微妙に表情が違います。
削って磨く工程が作業の半分以上を占めています。
サワラは柔らかいので削りやすいのです。
ただ、いま作っているものには、機械での強いやすりがけの跡が残ってしまっていました。
段階的にやすりの番手をあげ、やすりの跡が残りませんように。
最後は、手で撫でてみて、滑らかな風合いを確認してから納品いただくようお願いしました。
(丁寧な仕事をありがとうございます。どうぞよろしくお願い申しあげます。)
企画: SOLO 神 梓
山梨県林政部林業振興課 山瀬英治・小池舜
甲府刑務所処遇部企画部門 小池走野・都築朝和
企画・関係者:山梨県立美術館 下東佳那・森川もなみ
素材:山梨県産サワラ
デザイン・進行管理:SOLO 神 梓
製作:甲府刑務所 企画部門(作業)
販売:山梨県立美術館 ミュージアムショップ 小杉佳子
撮影・広報物デザイン:星野善晴
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